2021年11月2日、新型コロナウイルスの水際対策をめぐり、政府はビジネス目的での入国者に対し自宅などでの待機期間を現行の10日から原則3日に短縮する方針を固めた、というニュースが飛び込んできた。同月1日の厚生労働省の発表によればワクチン接種率(2回)は総人口の72.5%に達したという。観光旅行再開への長いトンネルを抜け出るまでにはもう少し時間がかかるだろうが、海外旅行再開を願う人々にとっては明るいニュースであることに変わりはない。
少々気の早い話にはなるが、アフターコロナの海外旅行の必需品となりうる「海外旅行保険」の話をしたい。ここ数年の間に「海外旅行保険」には「旅行中の病気や怪我、携行品に関するトラブルを補償してくれるもの」だけに留まらない幅広い補償やサービスが色々生まれてきた。ここでいう幅広い補償やサービスとは基本契約でカバーされるものとは別に、オプション(特約)契約までを含んでおり、各保険会社によってさまざまだ。例えば、航空機が遅延したときの延泊費用や、旅行の途中で帰国を余儀なくされた場合の移動費用を補償するものなど、ここで一つひとつを説明することは割愛するが、興味があれば保険会社のウェブサイトを覗いてみてほしい。
主要な保険会社と補償内容(2021年11月現在)
東京海上日動
https://www.tokiomarine-nichido.co.jp/service/travel/kaigai/attention.html
三井住友海上
https://www.ms-ins.com/pdf/personal/travel/kairyo.pdf
さて、話をアフターコロナの海外旅行の必需品に戻そう。なぜ、必需品と私が思うのか大きく分けて2つの理由がある。
【理由1】旅行中の感染症による治療費用が補償される
旅行中に「新型コロナウィルス」に感染し、治療・入院となった場合に保険に加入していればその費用を補償してくれるというもの。キャッシュレスで医療サービスを受けられれば高額な治療費を建て替える必要もなくなり不安も軽減される。
【AIG損保の場合(抜粋)】旅行行程中に感染した感染症(※)により、旅行行程の終了日を含めて30日を経過するまでに医師の治療を開始した場合に補償の対象となる。
(※)「感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律」第6条に規定する一類感染症から四類感染症および2020年7月31日以降、新型コロナウイルス感染症をいいます。
海外旅行保険というのは、原則として出発前に加入する必要があり、無保険、あるいはクレジットカードに付帯されている保険の補償額や補償範囲をよく調べずに日本を出国してしまったあと途中から旅行保険に加入することはできない。
海外での医療費が高いということは誰もが一般常識として知っているとは思うのの、実際にそれを体験したことの無い場合にはどうしてもイメージがつきにくいものだ。
私の経験談になるが、数年前、クレジットカードそれも2種類のゴールドカードをお持ちだったお客様が現地で発作を起こし病院に運ばれたことがある。約10日間の入院が必要となって滞在を延長して帰国することができたが、医療費にかかった総額は1200万円。クレジットカードでカバーできた補償額はわずか最初の2日間のみ、残り8日間はすべて自己負担となった。留守宅のご家族が急遽現地に駆けつけたが、それらの費用もクレジットカードで賄える範疇を超えており、見送りに空港に同行したときのご家族の一言が忘れられない。「これでむこう3年間は借金を返済するために暮らすようなものですね」
万が一はいつ起こるかわからない。こうしたお客様を少なからず見てきた私には旅行保険の大切さが身に沁みている。
【理由2】出発前にツアーや個人旅行をキャンセルした際に発生するキャンセル料を補償
これは、実はあまり知られていないが、「旅行前」の様々な不安やリスクを軽減する保険。アフターコロナの海外旅行を計画する人達はぜひ知っていて損はないと私は思う。なぜ、あまり知られていないのかと言うと、海外旅行保険のいわゆる基本契約には入っておらず、オプション(特約)に含まれているケースが殆どだから。保険会社によって呼称は若干異なるが「旅行変更費用補償特約(AIG損保、三井住友海上)」「旅行変更費用担保特約(東京海上日動)」などと呼ばれる。
【三井住友海上の場合(抜粋)】旅行の契約日以降に
・被保険者等が怪我または病気で入院した場合(3日以上)
・被保険者等の配偶者・2親等内の親族が怪我・病気で入院した場合(14日以上)
・渡航先に対する日本政府、在外公館による退避勧告・渡航中止勧告の発出 など
要するに、旅行の出発前に新型コロナウィルスに罹患して入院した場合や、渡航先の感染症の状況の悪化によって、外務省の海外安全情報(https://www.anzen.mofa.go.jp/)における感染症危険レベルがレベル3(渡航中止勧告)ないしはレベル4(退避勧告)に引き上げられた場合などが該当する。
このほかにも、渡航先で発生した地震や津波、内乱やテロ、運送機関や宿泊機関の事故や火災、被保険者に対する災害対策基本法に基づく避難指示が出た場合なども対象となる場合があり、渡航先、日本国内のいずれにおけるトラブルの双方にまたがる補償となっている。
海外旅行の計画というのは一般的には半年以上前、おそくとも1ヶ月前には立て終えていることが多いはずだ。それまでに勤め人であれば休暇を確保するだろうし、ホテルや航空券も極力安いプランやレートで旅行をしたいと考えるのが自然だ。今は、早期に旅行の計画を立てて予約を完了すればするほど安く手配できることが多い。その反面、万が一出発前にキャンセルすると費用の一部ないしは全額払い戻しがされないようなものの少なくない。一方で、新型コロナウィルス感染症の完全な終息はまだまだ先であると思われているし、ここ数年の日本を取り巻く自然環境においては大雨や台風などの災害も少なくない。旅行を中止しなければならない状況におかれる可能性はゼロではない。ほんのわずかな保険料をプラスするだけで、一定の条件が課されるにせよ、ひょっとしたらキャンセル料が補償されるかもしれない。保険とは安心のためのお守りみたいなものだとはよく言ったもので、わずかな保険料でそのお守りに守ってもらえるのなら、それこそリーズナブルな買い物ではないだろうか。
旅行の「お守り」が、旅行の「パートナー」に変わる時代
今年で旅行業界に携わり23年目になる。仕事で海外旅行保険に関わってきたのも同じぐらいの年数になる。それほど長い年月の付き合いになるにもかかわらず2019年まで私は海外旅行保険を「お守り」だと思ってきたし、それをお客様にずっとお伝えしてきた。先の10日間発作で入院し自己負担を余儀なくされたお客様の事例を経験したあとでさえも、保険無加入のお客様に対して、入りたくないと言われればそれ以上強く勧めることはしなかった。しかし、新型コロナウィルス感染症が世界的な脅威となったこの1年7ヶ月を経て、今後たとえコロナが終息した後であっても、新たな感染症が出てくるかもしれないし自然災害やテロの脅威は無くなることはないだろう。
未来を確実に予測できない限り、不測の事態というのはいつでも身近に存在すると思ってよい。保険はもはや「お守り」ではなく旅行の「パートナー」に変わる時代だと思っている。
海外旅行保険を旅行に欠かせない「パートナー」にすることは、ツアーであれ個人旅行であれ大小様々なリスクを最小限におさえながら、海外旅行の選択の幅が広がる可能性がでてくるということだ。アフターコロナこそ味方につけておいて損はない。