公演ノート

新国立劇場 2021−2022シーズン《ばらの騎士》

新国立劇場 2021−2022シーズン《ばらの騎士》

新国立劇場 2021−2022シーズン R.シュトラウス《ばらの騎士》
2022年4月9日(土)14:00〜 公式サイト
指揮:サッシャ・ゲッツェル
演出:ジョナサン・ミラー
演奏:東京フィルハーモニー交響楽団
出演:アンネッテ・ダッシュ(元帥夫人)妻屋秀和(オックス男爵)小林由佳(オクタヴィアン)与那城敬(ファーニナル)安井陽子(ゾフィー)ほか

先週の東京文化会館の《ローエングリン》に続いて、こちら新国立劇場の《ばらの騎士》も場内は9割ほぼ満員に近い。やっぱり聴衆で埋め尽くされる劇場は活気があっていい。

さて、この《ばらの騎士》は再演ということもあり目新しさでは新制作のような緊張感は無いものの、元帥夫人にアンネッテ・ダッシュを迎えるということもあって、今シーズン絶対に観に行きたいと思っていた公演だった。
幸運なことに、仕事のご縁からいつもなら座れないような1階席前方「上席」に座り、元帥夫人ダッシュを間近に聴けたという最高の機会を得た。先週の《ローエングリン》は懐事情もあってD席。3階の奥の席だったのだが、うーん、やはりカテゴリー相応か。値段と音の良さ、満足感はおおむね比例する。

話を戻すと、今回の《ばらの騎士》は第1幕と第3幕、圧巻的存在感あふれるダッシュの元帥夫人。その佇まいにも、歩く姿にも、醸し出される元帥夫人の苦悩と大人の色香、ほんのり見せる少女のような恋する気持ち。
第1幕に物思いに沈みオクタヴィアンを追い出した直後、オクタヴィアンにキスをし忘れて追いかけようとする瞬間の我に返り取り乱す場面、その後幕が下りるまでの流れは息するのを忘れてしまうくらいの美しさ。
物語上は元帥夫人ことマリー・テレーズは32歳という設定。現代ならまだまだそんな物思いに沈むような年齢じゃないよ、って言いたくなるところだけど、なんといっても時代は18世紀なかばのマリア・テレジア女帝下のウィーン。
きっと現代なら40代半ばぐらいの女性像に近いのかもしれない。とするならば、46歳という実年齢のダッシュがこの役どころにとてもピッタリなことも頷ける。

第1幕の白いガウンに身を包んだ元帥夫人が、第3幕では支度を整え、全身黒のドレスに白いロング手袋、黒と白のレースであしらわれた帽子を斜めにかぶり登場する。
スラリと背の高いダッシュだからこそ舞台映えするが、それだけではない気品に満ちた重厚な存在感が舞台にひろがる。
フィナーレのゾフィーとオクタヴィアン、そして元帥夫人の三重唱、最後に扉を出ていく前に一度振り返りオクタヴィアンを見つめる姿の美しいことといったら、言葉も出ない。

もう一つ特筆すべきはサッシャ・ゲッツェル&東フィルの珠玉の音色。
第1幕は若干不安を覚えた箇所もときに感じられたが、第2、3幕と続き、R.シュトラウスの官能的な美しい旋律、オックス男爵のワルツ、フィナーレの三重唱までの途切れぬ緊張感とそこはかとなく漂う色香に魅了し尽くされた。

 

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