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【絵画との対話】SOMPO美術館 FACE展 2022

SOMPO美術館 FACE展2022

絵画との対話、それは自分と向き合う時間、作家の心に寄り添う時間

「展覧会に行く目的は何か?」

コンサートやオペラなどの公演100回以上聴いたことがある私も、展覧会の、それも
絵画ともなるとそこまでの数には及ばない。
なので、ここでの話は専門的な経験や知識から話ではなく絵画が好きな一個人として、
ときおり書いてみようかと思う。

「展覧会に行く目的は何か?」

ここは音楽と大きく異なり人によって様々、個人差がある。
巨匠たちの名画が来日するから? それとも、お気に入りの作家の作品を観るため?
あるいは、家族や恋人と特別な時間を過ごすため? ただの暇つぶし?

いずれの場合も、ひと度その展覧会に入り込めば、絵画を観るための空間が用意されており、そこで各々の目的を果たすことはできる。ただ、音楽と同じく絵画においても、だれもが絵画とは一対一で対話するところは同じだ。

ここで言う対話とは何か?

それは自分と向き合う時間、作家の心に寄り添う時間。
作品を通して、ドキドキしたり、ざわざわしたり、幸せな気分になったり、哀しんだり、
ときには胸がしめつけられそうになったり、ハッと見えないものが見える。
そこに自分の声が重なる。素直に自分の心と対話する人もいれば、もっと深く入り込んで人生観に影響を与えることだってある。

しかし常に思うのは、あの一方的に何十点もの作品が次々に現れそこに追従し対話を繰り返す体験はなかなかハードな出来事だ。展覧会の規模によっては百数十点に及ぶ作品が並ぶこともあるのだが、そこまでいくとそれこそ重量級の体験で、そんな体験のあとはぐったりと身体じゅうの体力が消耗してしまう。
比較するべくもないが、三日三晩オペラやコンサート漬けにされるのと同じくらいの体験だとさえ思えてしまうほど。

ただ、どのようなかたちであれ絵画と対話できる空間を満足に味わえたあとは格別で、それは何かというと、「シンプルに作品に没頭できたかどうか、いかに絵画と充実した対話ができたか」によって大きく変わる。

 

いい展覧会とは、6つの要素が好みの基準を満たしていること

展覧会はストレスを感じない空間で観るのが一番。
これは誰も否定しない事実だと思う。

私にとってそれは、絵画と向かい合う空間の、もっと詳しく言えば、広さ・密度・質感・高さ・音・光の6つの要素が好みの基準を満たしている展覧会のこと。

  1. 広さ(作品の間の移動距離、鑑賞する人間同士の物理的な間隔)
  2. 密度(空間にいる人間の数)
  3. 質感(作品の展示のされ方)
  4. 高さ(天井の高さ)
  5. 音(話し声、イヤホンガイドの音、加湿器のモーター音など)
  6. 光(室内照明、自然光、薄暗い、眩しい、明るいなど)

広さと密度でいうと、作品と対話するときに視野に他者が入り込むと私はほんとうに気が散って仕方がない。展覧会での過ごし方は人の個性が出る。すべての作品に均等な時間をかけてじっくり観る人もいれば、気に入った作品だけを飛ばし飛ばしで観て進んでいく人、混雑していてもなんのそのお構いなしにマイペースに作品の中央に陣取り、しばらく動かないでいる人。
人の過ごし方が十人十色だからこそ自由に動き回れる空間が私は好きだ。一方通行ではなくて、鑑賞する側が行きつつ戻りつつしながら、自分のペースで観て進んでいける展覧会がいい。

次に質感も大事なポイント。
日本の展覧会、とりわけ海外からの来日作品に関しては貴重な作品になればなるほど、作品を保護するために透明なガラス板やアクリル板を通して鑑賞することになるので、ほぼ真正面に移動しないと満足して観れない。(最近では反射防止フィルムなども開発されているらしいが)
何よりもこの板が入ることによって、作家が伝えたい質感や風合い、画材の匂いがすべて抑え込まれてしまうことが残念で仕方がない。
ヨーロッパの多くの美術館では、巨匠の作品であっても・・・質感を失わなせないような配慮がされている。「お借りした作品」だから仕方がないことは理解できなくは無いがここはやはり残念としか言いようがない。

高さは天井の高さ。これは高いほうがいい。
音は、これは密度とも関連するが、イヤホンガイドであっても、複数での話し声であってもできることならあまりに気にせずに鑑賞したい。あと、加湿器モーター音は個人的には気持ちを落ち着かせる効果があると思っておりまったく気にならないのだが、これは個人差があるかも。

最後の光に関しては、展覧会によっては薄暗すぎてきついなと感じることがよくあるのだが、これは作品を保護する目的が一番大きいのだろう。それでも、ヨーロッパのそれと比べると暗すぎはしないか?

 

SOMPO美術館 FACE展2022

というわけで、ようやく本題。

実は、私はこのSOMPO美術館の存在を最近まで知らなかった。新宿の西口の一等地に2020年7月にオープンした美術館で、その前身は安田火災東郷青児美術館。その後二度にわたり名称が変更された。

この美術館の目玉はゴッホの《ひまわり》で、所有する公益財団法人SOMPO美術財団は、これとほかに洋画家東郷青児の作品を中心におよそ640点に及ぶコレクションを有しているのだそうだ。

美術館は6階建のモダンな建物で、さまざまなテーマの企画展をベースにして、財団のコレクションの一部を公開するスタイル。ただ、ゴッホの《ひまわり》だけは、他館への貸し出しがなければ常時観ることができる。

FACE展2022
2022.2.19(土)- 3.13(日)開催
美術館を所有する公益財団法人SOMPO美術財団が主催。新進作家を支援育成する助成活動として、現代絵画の公募コンクール展のひとつ。

 

ゴッホの《ひまわり》が主目的ではあったものの、この企画展がとても良かった。
何が良かったのかというと、先に書いた6つの要素がほぼすべて理想に近いものだったから。もちろんコロナ禍という背景もあるし、フェルメールの作品来日!といったキャッチーなテーマでもないから、そもそも比較すること自体ナンセンスではあるものの、ゴッホの名作や東郷青児の作品を含めてじっくり鑑賞することができるのはこの美術館ならではと思う。

さて、このFACE展というのは時代背景を描写した作品が多かったように思う。作品は全部で83点。
大きく時代が動くときには創作活動にも大きな影響を与える。作品はいずれも2021年の制作で全体的に先行き見えない不安感を覚えつつも、「希望」を託したもの、「不安」を描いたものに分かれていたように思う。中にはとても残酷で息の詰まるような作品もあった。グランプリから順に受賞作品が展示されているのでさっさと通り過ぎてしまうと見逃してしまうから注意。

話を戻すとこの企画展のなにより一番の収穫は、質感と風合いを堪能できたこと。これはほんとうに久しぶりの体験だった。画材は油彩、色鉛筆、アクリル、クレヨン、岩絵具、墨汁、水性ペン、蜜蝋などを使い、キャンバス、板、麻紙、麻布、綿布、和紙などにのせていく。当然、ガラス板やアクリル板で遮られることもない。
サイズも大小様々ではあるものの平均して長辺160cmほどの大きさが多かったように思う。このサイズだと見ごたえも十分。

FACE展は3月13日まで開催しているので、興味があればぜひ。

ちなみに、ゴッホの《ひまわり》は言うまでもなく厳重にガラス板で保護されています。
詳しくは次回で。

パリへの憧れとゴッホ兄弟の物語『たゆたえども沈まず』原田マハ

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