2023年2月24日(金)19:00開演 東京オペラシティ・コンサートホール
ラモー:クラヴサンのための小品 (クラヴサン曲集、新クラヴサン組曲集より)
優しい嘆き
一つ目の巨人
2つのメヌエット
未開人
雌鶏
ガヴォットと6つの変奏
ショパン:モーツァルトの歌劇「ドン・ジョヴァンニ」の“お手をどうぞ”の主題による変奏曲 変ロ長調 Op. 2
ショパン:ピアノ・ソナタ 第2番 変ロ短調 「葬送」Op. 35
ショパン:3つの新練習曲
リスト:ドン・ジョヴァンニの回想 S. 418
アンコール
J.S. バッハ :フランス組曲 第5番 ト長調 BWV 816 より "アルマンド"
ショパン:3つのエコセーズ より第1番 ニ長調 Op.72-3
サティ: 3つのグノシェンヌ 第1番
ベートーヴェン/イーサン・ウスラン: エリーゼのために インラグタイム
2021年のショパン国際ピアノコンクールでぶっちぎりトップで一位を獲得したブルース・リウ。この日の東京オペラシティの観客もスタンディングオベーションだったが、ひとたびピアノから離れ、ホールを見渡し笑顔を見せる25歳のスターの表情はまだ20代らしい初々しさがある。演奏のスタイルはまったく違うが、2019年のチャイコフスキー国際コンクールの覇者で昨年同じオペラシティで聴いたアレクサンドル・カントロフも同じ25歳。どこか似た雰囲気を感じさせる2人のピアニスト。この先どんな風にそれぞれのピアニストの道を歩んでいくのだろうという期待が膨らむ。
ちなみに、カントロフのオペラシティはS席で6,000円。今般のリウは8,000円。これほど安い(!)チケット代で彼らの素晴らしい演奏が聴けるのも今だけかも…
アレクサンドル・カントロフ ピアノリサイタル(2022年6月30日)東京オペラシティ / https://musik-travelers.com/performance_report-7/
さて、その演奏はといえば、一音一音が磨き尽くされた音の粒とテクニックが半端ないほど素晴らしかった。まず前半のプログラム。ラモーのガヴォットと6つの変奏、ショパンの“お手をどうぞ”の主題による変奏曲。随所に散りばめられる粒の揃ったエレガントな響きに感嘆のため息。多くのピアノ作品の中ではマイナーな部類に入るラモーと、ショパンの初期の作品。これらをコンサートのプログラムに選曲するあたりが別次元。相当の自信がなければとても選ぶことはできないだろう。“お手をどうぞ”は2021年のショパンコンクール3次予選でも弾いた作品であり、今回リアルで聴くのを楽しみにしていたのだが、期待を裏切らない演奏だった。
ところでこのラモーの6つの変奏、“お手をどうぞ”変奏曲、さらに後半最後のドン・ジョヴァンニの回想に至るまで、これ程エキサイティングな変奏曲に出逢ったのは初めてかもしれない。演奏によってはややもすると退屈になりがちな変奏曲だが、リウの演奏はとても楽しそうに、また、遊び心を覗かせながら弾くとてもエキサイティングなものだった。
さて、後半のピアノソナタ第2番と3つの新しい練習曲のあとに続くリストのドン・ジョヴァンニの回想、かつて何かのインタビューでリウが自分のことを「僕はもともとジョイフル、楽観的な人間だ」と語った記事を見たことがあるが、この選曲もまさにそんなリウのキャラクターにぴったりの選曲。シャンパンの歌のバリエーションが登場しフィナーレを迎えるまでのほとばしる響きには、これが僕の等身大の姿だ、とでも言わんばかりのユーモアさえ感じさせた。
使用ピアノはファツィオリ。こちらもリアルで聴くのは実は初めて。まるみのある柔らかな響きとピアニシモにも温かで深みのある音色が行き届く。今回のプログラムに相応しいと感じた。それと同時に、今後リウの演奏をスタインウェイやカワイといった他のメーカーのピアノで聴いてみたい、そんな期待も込めて会場をあとにした。
コンサートはこのあとも大阪や福岡、3月2日まで続きます。
詳しくはこちら。
https://www.japanarts.co.jp/concert/p994/