今回の旅のルート|第2回
カイロ → アスワン → アブ・シンベル
全長約6,650km、一般に世界最長とされるナイル川。
源流をたどると、ウガンダ、タンザニア、ルワンダ、ブルンジ周辺を源流域とする白ナイルと、エチオピア高原を源とする青ナイルに分かれ、両者はスーダンで合流して北へ流れ、エジプトを縦断し地中海へ注ぐ。
古代から人々は、この川の増水が運ぶ水と肥沃な土に暮らしを支えられてきた。しかし、洪水や渇水に左右される不安定さも抱えていた。そこで20世紀、洪水調節、安定した農業用水の確保、水力発電を目的に建設されたのがアスワン・ハイ・ダムである。
1960年に着工し、1970年に主要工事が完成。ナイルは、自然のリズムに委ねる川から、人の手で水量を管理する川へと大きく姿を変えた。
カイロから国内線で約1時間20分。アスワン国際空港に到着し、そのままアスワン・ハイ・ダムへ向かう。
車窓に広がるのは、褐色の大地と砂漠。その中を送電線が延び、やがて巨大な発電所とダムが姿を現した。

カイロより南に位置するここアスワンは、さらに暑い。
日差しも刺すように暑いが、なにより顔にあたる風が、ドライヤーの熱風のようだ。
アスワン・ハイ・ダム近くのパーキング、売店の屋根下でぐんにゃりとのびている犬を見ればよくわかるだろう。

次の目的地、アブ・シンベルへ向かうにつれ、暑さはさらに増していく。
エジプトを南北に貫く幹線道路、その両側は砂漠だ。
太陽に照らされた大地は、褐色から次第に明るい砂色へ変わり、場所によっては白金色にも見える。
バスを降りれば灼熱の大地が広がり、果てしなく延びる幹線道路。その両側を、送電線が砂漠の彼方まで並走している。
途中、ドライブインで休憩を取る。
駐車場はなく、空いているスペースに停める。



ここから道路に出て前後を見渡すと圧倒される。地平線の彼方まで永遠に続くまっすぐな道路。
日によっては蜃気楼も見えるそうだが、この日は見ることは出来なかった。
道路は、大小さまざまな車やトラック、バスが行き交うが、その流れが止まると人々は写真を撮りに道路に出る。
そしてドライバーは、人間が道路脇にいると判ると、十中八九派手にクラクションを鳴らす。
「万が一」の事故を避けるための行動なのだろう。

濃厚なソースやスパイスと一緒にオーブンで焼いて煮込む。
やがて、この砂漠の真ん中に、巨大な湖が突然現れる。
それが、アスワン・ハイ・ダムによって生まれた人工湖ナセル湖だ。
貯水池は南北約500kmに及び、北側のおよそ3分の2にあたるエジプト領をナセル湖、南側のスーダン領をヌビア湖と呼ぶ。砂漠の中にこれほど大きな湖が広がる光景は圧巻だ。
しかし、この巨大な湖の誕生によって、ヌビア地域の広い範囲が水没することになり、多くの古代遺跡も危機にさらされた。その代表がアブ・シンベル神殿である。ユネスコによると、水没を避けるため、神殿は1000個以上の巨大な石のブロックに分割され、旧所在地より約64m高く、約180m内陸の現在地へ移設・再建された。

アブ・シンベルは、スーダン国境に近いエジプト最南部の小さな町である。巨大なナセル湖と砂漠に囲まれ、現在は世界遺産アブ・シンベル神殿観光の拠点となっている。カイロやアスワンの街で見かけたような雑踏と混沌とした雰囲気とはまったく違う。
湖畔にはホテルもあるが、本格的なリゾート地というより、世界遺産を訪れるための静かな観光地という印象が近い。それだけに、この巨大な神殿に漂う時間が止まったように感じる静謐さが見るものを圧倒させる。


アブ・シンベル神殿は、紀元前13世紀にラムセス2世がヌビア地方に築いた岩窟神殿である。大神殿は古代エジプトの主要神(アメン、ラー・ホルアクティ、プタハ)、そして神格化されたラムセス2世に捧げられ、正面には高さ約20mの王の巨像4体(すべてラムセス2世!)が並ぶ。隣の小神殿はラムセス2世の王妃ネフェルタリと女神ハトホルに捧げられた。神殿内部には列柱が並び、壁面には古代エジプトの神々やファラオを描いた浮彫が残る。ピラミッドと同じく圧倒されるのだが、こちらは、ピラミッドの時代より1200〜1300年も後に造られたもの。とはいえ、紀元前のお話だから、日本は縄文時代だ。
改めてこれほどまでの神殿を作り上げた、その技術には感嘆するしかない。

この日の宿泊は、ナセル湖のほとりに建つ、静かなリゾート型ホテル。
南エジプト南部のヌビア地方に伝わる建築様式を取り入れているそうで、自然石を用いた低層の石造りの建物が緑豊かな庭園の中に点在している。
丸みを帯びたドーム屋根が印象的で、砂漠の風景にもよくなじむ。
湖を望む開放感があり、夕暮れの雰囲気はまた格別な感じだ。



翌朝、再びアブ・シンベル神殿。
日の出に照らされる神殿を眺めようという旅行会社の配慮だ。連日早朝起きというのはなかなかハードな行程ではあるものの、この時期のエジプト旅行は早朝か夜でないと、快適には過ごせない。
日中は私たち旅行者でなくても、気温40度を超えたらとてもではないが、身体へのダメージが大きい。
そのため今回のツアーも、できるだけ暑さを避けるよう早朝や夕方に見学を組み込んでいる。
連日の早起きはなかなか堪えるが、身体への負担を考えれば、早朝や夕方に見学を組み込む時間配分には納得できる。


実際に朝日に照らされる神殿は、これまたとても荘厳な雰囲気で観光客も少なく静かに過ごすことができる。
神殿内は、前日夕方には見られなかったコウモリも登場。


後半、ナイル川クルーズで数々の神殿を訪れたが、今振り返ってもアブ・シンベルの印象は特別だ。昼の喧騒が消えた夕暮れと、観光客の少ない朝。砂漠と湖に囲まれた神殿がしんと静まり返る時間は、日帰りでは味わいにくい。アブ・シンベルは、できれば一泊して訪れたい場所である。
この後、アブ・シンベルを離れて、再び、北上。
あの砂漠を突っ走り、アスワンに戻る。

