音楽体験・旅のヒント

初めてのウィーン音楽旅 オペラとコンサートをもっと楽しむ街歩き案内 

ウィーン国立歌劇場

1. 劇場に向かう道のりも音楽体験

ウィーンでオペラやコンサートを観る楽しみは、劇場の中だけで完結するものではありません。もちろん、幕が上がり、音楽が始まる瞬間は特別です。けれども、その時間に向かって街を歩き、劇場の外観を眺め、開演前に少しだけカフェに入って気持ちを整えることも、音楽旅の楽しみです。

ウィーンの中心部には、劇場、コンサートホール、美術館、カフェが比較的近い距離に集まっています。少し路地(Gasse)に入るとカフェや小さな広場(Platz)があり、その先にまた別の歴史ある建造物が見えてくる。ひとつひとつの場所を「観光名所」として急いで巡るよりも、街の雰囲気をゆったり味わいながら歩く方が、ウィーンらしさは伝わってくるように思います。オペラやコンサートの前に、その周辺を少し歩いておくだけで、夜に劇場へ向かう時間がよりワクワクしたものになるでしょう。

2. オペラ座(ウィーン国立歌劇場)周辺を歩く

オペラ座の周辺は、ウィーンで音楽を楽しむ旅の入口として、まず押さえておきたい場所です。観光の中心部(聖シュテファン大聖堂やケルントナー通り)から歩きやすい場所にあり、周辺には地下鉄駅や大通りもあるため、初めて訪れる方にも比較的わかりやすい立地です。オペラ座は、1869年に開場した歴史ある歌劇場。皇帝フランツ・ヨーゼフ一世とエリザベート皇妃の臨席のもと、モーツァルトの《ドン・ジョヴァンニ》でこけら落としが行われました。第二次世界大戦で大きな被害を受けましたが、戦後に再建され、現在も世界屈指の名門歌劇場として不動の地位にあります。昼間に見る劇場は、夜の公演時とは少し違った表情をしています。建物の外観や入口の位置、周囲の通りの雰囲気をあらかじめ見ておくだけでも、夜に訪れるときの安心感が違います。初めての劇場では、どこから入るのか、どのくらい人が集まるのか、ホテルからどの程度の距離感なのかを知っておくことが、思いのほか大切です。(鑑賞ツアーなどグループで行動する場合にはこの心配はありません)

夜になると、劇場周辺の空気は少し華やかになります。きちんと装った人たちが劇場へ向かい、入口付近には開演を待つ独特の高揚感が生まれます。この雰囲気は、写真や映像ではなかなか伝わりません。実際にその場に立ってみると、「これから劇場に入る」というだけで、旅の気分が一段上がります。

3. 楽友協会ホール周辺を歩く

オペラ座周辺が劇場らしい華やぎを感じさせる場所だとすれば、楽友協会ホール周辺には、もう少し落ち着いた雰囲気があります。ここ楽友協会ホールは、1870年に開場したウィーンを代表するコンサートホールで世界最高峰のオーケストラの一つウィーン・フィルハーモニー管弦楽団の本拠地です。古代ギリシア神殿を思わせる建物の中に、華やかな装飾で知られる「黄金のホール」があり、その響きは世界的に高く評価されています。現在ではニューイヤーコンサートの会場としても知られ、ウィーンの音楽文化を象徴する存在です。このあたりも、大きな通りや広場が近くにありますが、オペラ座周辺と比較するとずっと静かです。裏手には、ウィーンが誇る5ツ星ホテル「インペリアル」もあり、コンサート前にカフェやバーでひと息つくと、開演前の時間に余裕が生まれます。

Imperial Bar Wien

楽友協会から周辺の通りを歩いていると、足元にも小さな発見があります。歩道には、ウィーンゆかりの作曲家や演奏家を記念する星形のプレートが見つかることがあります。建物だけでなく、足元にも音楽の記憶が刻まれている。そんなところにも、ウィーンらしさを感じます。

4. 音楽と美術をつなぐ寄り道

ウィーンの魅力は、音楽だけでなく、美術や建築とも深く結びついているところにあります。その代表的な場所のひとつが、カールスプラッツ駅近くにある分離派会館(セセッション)https://secession.at/ です。白い建物の上に金色の葉のドームを載せたような外観は、ウィーン世紀末芸術を象徴する建築として知られています。ここでぜひ触れておきたいのが、クリムトの《ベートーヴェン・フリーズ》です。この作品は、1902年に分離派会館で開かれた展覧会のために制作されました。展覧会そのものがベートーヴェンへのオマージュとして企画され、クリムトの壁画は、ベートーヴェンの《第九交響曲》、とりわけリヒャルト・ワーグナーによる解釈をもとに、人間が苦悩を越えて幸福へ向かう姿を描いたものとされています。この作品を見ると、ウィーンでは音楽、美術、建築が別々の分野として存在していたのではなく、互いに響き合っていたことがよくわかります。劇場で音楽を聴き、街で建築を見て、美術館で同じ時代の美意識に触れる。そうした体験が重なることで、ウィーンという街の奥行きが少しずつ見えてきます。

5. 開演前の過ごし方

初めての劇場に行くときは、開演の1時間前には、できれば劇場周辺に着いていたいところです。まずは、建物の外観を少し離れたところから眺めてみます。昼間に見た劇場も、夜になるとまったく違う表情になります。正面入口の雰囲気、集まってくる人たちの服装やざわめき。そうしたものを感じる時間も、音楽旅の楽しみのひとつです。

ウィーン国立歌劇場 正面の大階段

いざ、入場したら、クロークはどのあたりか、トイレはどこにあるか(けっこう分かりにくい)といったことを早めに把握しておくだけで、気持ちに余裕が生まれます。公演プログラムは、劇場の入口付近の販売スタッフやホール内の案内スタッフから買うことができます。ツアーで参加する場合も、30分前には劇場内部に入るつもりで動く方が安心です。クロークに上着を預け、プログラムを確認し、客席の位置を確認する。そして、開演前の劇場の空気に少しずつ慣れていく。この「何もしない時間」が、実はとても大切です。客席の雰囲気を眺めたり、オーケストラピットの様子を見たり、周囲の人たちの期待感を感じたりするうちに、旅先の劇場で音楽を聴く準備が、自然と整っていきます。

ウィーンのオペラ座内にはCafé Operというカフェがありますし、通りを挟んで向かいには、ゲルストナー(Gerstner)、裏手にはカフェ・モーツァルト (Café Mozart)、ホテル・ザッハー (Hotel Sacher)のカフェもあります。ここは、ザッハトルテで有名ですが、最近ではいつも長い列ができています。

6. 休憩中の過ごし方

オペラやコンサートでは、幕間や休憩時間も楽しみのひとつです。休憩に入ると、ホワイエやロビーには人が集まり、飲み物を片手に談笑したり、プログラムを見返したりしています。初めて海外の劇場を訪れる方にとっては、この時間の雰囲気も印象に残るはずです。

オペラ座にはシュヴェント・ホワイエ (Schwindfoyer)に代表される豪華な装飾が施されたホワイエが3箇所あり、小規模なホワイエも2箇所あります。数回鑑賞する機会があれば、毎回違うホワイエを歩いてみるのも楽しい過ごし方です。楽友協会ホールは、地下と1階に大きめのホワイエ、小規模なバーカウンターが2箇所ほどあります。

ホワイエの中には、開演前からオープンしているところもあるので、早めに劇場に到着した場合も利用できるので便利です。

ウィーンもオペラ座、楽友協会ホールともに、トイレの数が限られており、休憩時間は思った以上に慌ただしくなります。飲み物を楽しみたい場合も、まずはトイレや客席への戻り方を確認してから動くと安心です。日本のように、休憩終了を大きく案内する放送はありませんので、劇場スタッフに確認するか、場内のインフォメーションを見て、少し早めに客席へ戻ると安心です。

ウィーン国立歌劇場 休憩時間のインフォメーション

7. 終演後の過ごし方

終演後は、無理に予定を詰め込まなくてもよいと思います。

素晴らしい公演を観たあとほど、すぐに次の予定へ移るのではなく、少し余韻を残しておきたいものです。劇場を出たあと、外の空気を吸いながら建物を振り返る。さっきまで聴いていた音楽や、舞台の場面を思い出す。それだけでも、十分に贅沢な時間です。

もちろん、劇場近くで軽く一杯楽しんだり、ツアーであれば同行者と感想を話したりするのも楽しい過ごし方です。個人旅行の場合は、ホテルに戻って部屋で静かに余韻を味わう選択も悪くありません。

8. 服装と持ち物

海外の劇場というと、服装に不安を感じる方も多いかもしれません。けれども、過度に構える必要はありません。ウィーンでも最近ではずいぶんとカジュアルになってきました。

大切なのは、格式ばった服装を無理に用意することではなく、「劇場で過ごす時間を少し特別なものとして楽しむ」気持ちです。日中の観光とまったく同じ服装ではなく、少しだけ整える。これだけでも、劇場に入ったときの気分は変わります。

オペラやコンサートのシーズンは秋から初夏にかけてですが、例えば、ウィーンの春〜初夏は、日中は過ごしやすくても、朝晩や劇場帰りには肌寒く感じることがあります。薄手の上着や薄手のコート、ストールなど、温度調整しやすいものがあると安心です。持ち物としては、劇場内で邪魔にならない小さめのバッグ、チケット、オペラグラス、眼鏡やハンカチ、必要最小限の現金やクレジットカード。大きな荷物はクロークに預けることになりますので、客席に持ち込むものは、できるだけ身軽にしておくと落ち着いて鑑賞できます。

劇場での服装については、別途動画でも詳しくお話ししています。出発前に一度ご覧いただくと、当日のイメージがしやすくなると思います。

オペラやコンサート観劇の服装、どうしてますか?「旅するオペラ」服装編

9. おわりに

ウィーンを訪れる楽しみは、有名な観光場所をいくつ回ったかだけで決まるものではありません。劇場へ向かう道、開演前のざわめき、ホールに入った瞬間の空気、終演後に外へ出たときの夜の街。そうしたひとつひとつの時間が重なって、音楽の旅は形づくられていきます。特にウィーンの音楽旅で大切にしたいのは、名所を制覇することではなく、音楽が生まれ、演奏され、受け継がれてきた街の空気を感じることです。オペラやコンサートは、劇場の中だけで完結するものではありません。街を歩き、建物を眺め、人々の雰囲気を感じ、開演を待つ。そこからすでに、音楽体験は始まっています。

どうぞ、少し余白を持って、ウィーンの音楽の時間を楽しんでいただけると嬉しいです。

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