2025年9月14日(日) 公演キャスト
ワーグナー《さまよえるオランダ人》
指揮:上岡敏之
演出:深作健太
管弦楽:読売日本交響楽団
合唱:二期会合唱団
 
キャスト
オランダ人:河野鉄平
ダーラント:山下浩司
ゼンタ:中江万柚子
エリック:城宏憲
マリー:花房英里子
舵手:濱松孝行
 
公式サイト
https://nikikai.jp/lineup/hollander2025/
 
東京二期会の新演出《さまよえるオランダ人》3日目に当たる9月14日。同日に「旅するオペラ」https://musik-travelers.com/operacalss_250914/も開催した。
今回、個人的に最も心を揺さぶられたのは第3幕の合唱。嵐の中で繰り広げられる圧倒的な響きは、まさに鳥肌もの。氷海で遭難者仕様に描かれた幽霊船員たちの姿には度肝を抜かれたが、それを支える二期会合唱団のパワーは見事だった。 

ゼンタ役の中江さんは、華々しいデビューにふさわしい存在感。鋭さと柔らかさを兼ね備えた歌唱は新鮮で、今後ますます注目が期待される。 
オランダ人役の河野さんは安定感を誇り、これまで新国立劇場で聴いた《オランダ人》や《魔笛》に続き、今回も役柄の苦悩を深く体現。演技力の高さが一層際立っていた。
指揮は上岡さん。序曲冒頭の「一体いつからそこにいたの?」と思わせる滑り出しから、ゼンタのバラードに至るまでフレージングに強いこだわりを感じさせた。嵐やオランダ人のモチーフが管弦打の響きの中で幾重にも重なり、全体として情熱的かつ重厚な音楽を築き上げた。
そして演出。深作さんの手腕は、ハリー・クプファーへのオマージュが明確に伝わるもの。全シーンにゼンタを前面に押し出し、物語の中心に据える描き方が印象的だった。改訂版の“ハッピーエンド”であることは序曲の時点で示されており、安心して物語を見届けられた。最後に温かな眼差しを持ち続けたゼンタとオランダ人が見事に昇天する姿は、この演出の核心を示していたように思う。
 
さて、《さまよえるオランダ人》には救済のない「初稿版」と、救済のある「改訂版」の二つがある。今回の深作演出は事前にYouTubeで予告されていたので、改訂版になるだろうとは分かっていた。
それでも新演出を迎える瞬間には、なんというか、独特の緊張感と高揚感が同時に押し寄せてくる。この期待と揺らぎこそが、オペラ400年の歴史が持つ普遍的な価値だとつくづく思う。
実際にゼンタは終始舞台に存在し、氷海の額縁を腕に抱えながら慈愛に満ちた表情を浮かべていた。最初からハッピーエンドであることは明白だったのに、「もしかして途中でどこかに仕掛けがあるのでは?」とつい身構えてしまう。その感覚こそ、新演出ならではの楽しみでもある。
(2025年9月28日更新)「旅するオペラ」参加者M.Kさんからも感動のフィードバックが届きましたのでご紹介したいと思います!
NOTE:
一幕から三幕まで飽きることなく見せ聴かせる演奏と演出に引き込まれる。
ダーラントの前に不気味な幽霊船が現れ「さまよえるオランダ人」と出会う静かな始まりの一幕
からオランダ人と運命的な出会いを感じるダーラントの娘ゼンタの二幕、オランダ人との
永遠の愛を誓い海へ身を投げるゼンタと救済される二人のラストまで休憩なし一気に駆け抜ける。
第三幕、幽霊船と水夫の陰と陽の合唱の掛け合いが物語をフィナーレに向けて盛り上げる。
その迫力に鳥肌が立つ。ゼンタのソプラノも表現力があり物語に引き込まれていく。
合唱のクライマックスからオランダ人とゼンタが白い衣装に身を包みオランダ人を追うように
ゼンタが海に身を投げたあとの救済の演出に感動、心を打つ。
鑑賞後にも残る高揚感と爽やかな幸福感を与えてくれる素晴らしい作品だった。
ゼンタ役の中江万柚子のソプラノが素晴らしい。デビュー直後だったということを知り驚いたが
これから注目をしたい。二期会合唱団の二重唱、三重唱の合唱もとても迫力があり作品を盛り上げ
思わず体が震えるような感動を覚えた。音楽が人に与える感動のすばらしさを感じた。
休憩もなく二時間半と長い作品だったが逆に物語に集中ができて最後の救済の演出の感動に繋がった
ように思う。
ワーグナーは重苦しいイメージだったが音楽が素敵だった。ワーグナー初心者には特に向いて
いる作品のように感じる。もう一度見てみたいと思う作品だった。
*オリジナルのまま掲載


